大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(け)19号 決定

よつて本件保釈取消請求事件記録(当庁昭和四二年(て)第三二号)及び本案記録(当庁同年(う)第一、六八八号)を調査するのに、被告人は昭和四一年一〇月五日小型自動車競走法違反罪により勾留のまま東京地方裁判所に起訴され、同年一一月一五日弁護人岡部勇二の保釈許可申請により保証金額三〇万円をもつて保釈を許可され、同日身柄を釈放されたが、昭和四二年六月二九日同地方裁判所において有罪の宣告を受け、懲役一〇月(未決勾留日数中二〇日算入)に処せられたところ、同日同弁護人から控訴の申立がなされ、且つ保釈許可申請がなされ、同日同地方裁判所において保証金額五〇万円をもつて再保釈を許可され、被告人は身柄を収監されなかつたこと、控訴審においては、昭和四二年一〇月三一日当庁第六刑事部において被告人不出頭のまま第一回公判が開かれ、同年一二月五日被告人不出頭のまま第二回公判が開かれ、弁論を終結して、判決宣告期日は同月二八日と指定されたこと、同年一二月六日東京高等検察庁検察官から右裁判所に対し、被告人につき刑事訴訟法第九六条第一項第二号、第五号各所定の事由があるとして保釈取消請求がなされ、同月一二日同裁判所において同法第九六条第一項第二号(被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき)に該当するものとして、同年六月二九日東京地方裁判所のなした前記保釈許可決定を取消し、右決定に基いて同日納入した保釈保証金五〇万円のうち、三〇万円(納付人弁護人岡部勇二)を没取する旨の決定のなされたことがいずれも認められる。ところで、前記保釈取消請求記録によれば、これより先、被告人に対し別件詐欺被疑事件につき同年一一月三〇日付をもつて東京簡易裁判所裁判官の逮捕状が発布され、警視庁刑事部捜査第四課の係官数名が同年一二月二日午前七時頃右逮捕状及びこれに関連する捜索差押許可状を執行するため、被告人の自宅に赴いたところ、被告人は既に逃走しており、更に右係官が同日から同月六日までの間右被告人の自宅及びその勤務先に張込みを行なつたが、被告人の立廻つた形跡はなく、右逮捕状の執行ができなかつたことが認められ、以上の事実に徴すれば、被告人が逃亡したと認められることは明らかであるから同人につき前記刑事訴訟法第九六条第一項第二号所定の事由があるものと解さなければならない。しかして、保釈保証金は刑の執行の確保をも含め出頭の確保を担保するものであるところ、同法第九六条第二項は、保釈取消の事由を生ぜしめた被告人に対する制裁として該保証金の全部又は一部を没取することができる旨を定めているのであるから、本件の場合、被告人に前記逃亡の事実があつた以上、これが没取をなし得るものというべきである。もつとも本件においては、右保釈取消決定前の同年一二月八日東京高等検察庁検察官から原審裁判長宛に送付された疏明資料中の、同日付発信者警視庁捜査第四課鈴木係官、受信者右検察庁検察事務官の電話聴取書によれば、同課において詐欺事件被疑者として手配中の石井六郎(被告人)は、昨七日午後一〇時過弁護人に同伴されて出頭した(但しその後の同月一二日付電話聴取書によつて、右同伴者は被告人の兄石井謙二郎と訂正されている)ので、警視庁内において逮捕状を執行され留置されたことが認められ、又同月八日付の弁護人岡部勇二名義の保釈決定取消請求に対する意見書中にも、右詐欺被疑事件については、被告人は同弁護人と協議のうえ、昨七日に警視庁に任意出頭し、逮捕状の執行を受けて目下同庁に勾留中である旨が記載されており、更に同月一二日付の前記検察庁検察官から前記裁判所宛の控訴被告人の逮捕についてと題する書面によつても、被告人は同月九日別件詐欺被疑事件により警視庁愛宕警察署に勾留されたことが認められるので、原決定当時の同月一二日被告人が逮捕、勾留されていたことは明らかであるが、かかる逮捕、勾留の事実があつたとしても、将来の取調の結果如何によつては不起訴乃至起訴猶予処分により釈放される可能性もないとはいえないのであるから、その一事をもつて原決定が違法であるとの理由とすることはできない。しかして、前記本案記録並びに追送された刑執行指揮通知書によれば、被告人は弁護人岡部勇二と連名をもつて、同年一二月一六日本件控訴を取下げ、前記一審判決は確定し、被告人は同月一八日から前記懲役刑の執行を受け始めたことが認められるから、今更、保釈決定を取消した原決定を更に取消す実益がなく、なお、同決定中保証金の一部没取については、前記のとおり何ら違法とすべき点がないので、本件異議の申立は結局においてその理由なきものというべきである。その他所論に徴し、記録を調査しても、原裁判所の保釈取消並びに保釈保証金の一部没取決定については、いささかの違法も存在しない。論旨はすべて理由がない。

(三宅 石田 金)

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